概要
2013年3月9日から約1週間のあいだ、静岡の丸子紅茶の村松二六さんにお誘いいただき、スリランカに同行させて頂きました。おもに訪問、滞在した産地と茶園名は、次のとおりです。
産地名:ヌワラエリア [訪問茶園名:パークエステイト(宿泊)、ラバーズリーフ(観光農園)]
産地名:ウバ [訪問茶園名:ウドウァラ Finlays(会社名)]
産地名:ディンブラ [ラクシャパーナ]
目的
スリランカ産の紅茶は、紅茶専門店や、産地別ティスティングなどの際に、何度も飲む機会がありましたが、ウバ、ディンブラ、ヌワラエリアなど、誰が飲んでも、それらの特徴の違いがはっきりと分かる紅茶をつくっていることに、以前から興味がありました。日本の東北地方と同じぐらいの面積の小さな島(セイロン島)で、どのようにして、特徴の違いのある紅茶がつくられているのか。
また、メンソールの香りがするウバの紅茶は、どのような環境でつくられているのか、知りたかったからです。
報告
直線距離では近くに感じる隣の産地であっても、決して近くない理由
ウバのウドウァラ茶園を訪問した際、マネージャーに「すぐ山の向こうに見ることができるヌワラエリアと、このウバで、なぜ、こんなに特徴の違う紅茶ができるのか」という質問をしたところ、「隣の産地が近くに見えても、近いわけでない。谷が深く、山が険しい地形から、隣の産地はとても遠いのだ」と言われてました。
各産地によってクオリティーシーズンが異なるスリランカの紅茶
クオリティーシーズンとは、一年のなかでもっとも品質の高い新芽を収穫する時期のこと。日本では、ほとんどの産地が一番茶の時期がクオリティーシーズンであるのに対して、スリランカでは各産地によってクオリティーシーズンが異なっていました。これは、スリランカの各産地によって、雨季と乾季の時期が異なること、また乾いた風が吹く時期が異なること、などが要因であると考えられます。
ウバに行けば、どこでも、いつでも出来るという訳でない、ウバの香りとされる(メンソールの香り)紅茶
ウバのウドウァラ茶園を訪問した際、マネージャーに聞いたことですが、日本で、ウバの香りとされる(メンソールの香り)紅茶は、ウバの中でも、「限られた茶園で」、かつ、「クオリティーシーズン」に収穫したものでないと、出来ないそうです。
ウバでは、100か所以上のある茶園が、low grand(標高が低い)、middle grand(標高が中間)、high grand(標高が高い)の3つに分類され、「限られた茶園」とはhigh grandの茶園の中でも5か所ぐらいとなるそうです。
聞いた話を整理すれば、「ウバの香りとされる(メンソールの香り)紅茶」をつくるには、ウバの産地のなかでも、かなりハードルの高いものだのだと、わかりました。
スリランカの紅茶産地から学んだこと
セイロン島南部の険しい複雑な地形が、多種多様な特徴のある紅茶を育てていることがわかりました。
奈良・月ヶ瀬では、山間に点在する茶園ごとに、標高、方位、土質、斜面の角度、陽当りや風あたりといった、お茶が育つための大切な条件が微妙に異なります。そんな生育環境を活かすには、一番茶だけにこだわらず、茶園ごとに、「クオリティーシーズン」(最も品質が高くなる収穫シーズン)を見極めながら、様々な特徴のあるお茶をつくることも大事にしたいと思いました。
スリランカでは、立地条件による違いが特徴の異なる紅茶ができる大きな要因となっていましたが、日本では、品種の特性や違いを活かすことで特徴ある紅茶をつくることができる可能性に秘めていると感じました。
今回の訪問、滞在で、「テロワール」(=生育地の地理・地勢・気候による特徴、生育環境)の重要性やその意義を学ぶことができました。これを活かすには、奈良・月ヶ瀬で、農薬も化学肥料も使わない栽培を展開するからこそ、「テロワール」を表現するお茶づくりに繋がってくることが、はっきりとしました。
2013年3月 月ヶ瀬健康茶園 岩田文明