月ヶ瀬健康茶園

文明語る

新茶案内2015

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いつも当園のお茶をご愛飲いただきありがとうございます。

今冬月ヶ瀬では、積雪はなかったものの、12~1月には厳しい冷え込みが続いた後、2~3月は例年より雨量が多かったため、春の訪れとともに、休眠から冷めた芽が一気に膨らみ始めています。これから晩霜や雹など、気が抜けない日々となりますが、この調子で順調に生育してくれることを願っています。

秋から冬のあいだ、茶樹の根や茎にじっくりと蓄えていた栄養がゆっくりと新芽を芽吹かせていきます。一年の最初に収穫する一番摘みの新芽となります。そして奈良・月ヶ瀬の朝夕の寒暖差(5~20℃)の大きい、山間地特有の気候のリズムの中、ゆっくりとゆっくりと生長することで、重みのあるひき締まった新芽に育ちます。

茶は古来、薬としてその歴史が始まったとされています。夏は「葉」を、秋は「実」を、冬は「根」を、そして春には「芽」を…。というように、この時期にタケノコやワラビを食するように、新茶の時期に茶の新芽の勢いを飲むことは、一年を元気で過ごすためにも大切なことだと考えています。

これから緊張感高まる新茶のシーズン、チーム岩田一同が力を合わせ、仕上がった新茶を出来る限り早くお届けできるよう、収穫・製茶・袋詰め・箱詰めと精一杯頑張ります。

 

新たな取組みの中で、茶園が変化してきたこと、分かってきたこと

当茶園では1984年から農薬も化学肥料も一切使わない有機栽培のお茶づくりを続けてきました。「健康に良くないもの(農薬や化学肥料など)は一切使わない、投入しない」という観点から安心・安全なお茶づくりに取組んできましたが、30年間つづけてきた中で、「お茶の本質とは何か」を考えた時「本来、農薬も化学肥料も全く必要のないもの」であり、「お茶が自らの生命力で育つことができる茶園環境」を意識していくことが大切であると、はっきりと致しました。

2011年より全圃場で動物性由来の肥料を使わず、地域に育つ自然の草木を茶園に施すことを主体とした栽培に切り替えて、4年が経ち、少しずつ茶園に変化が出始めましたので、気づいたことを紹介いたします。

毎年、茶園の畝間に敷き詰めている草木は、四季ある気候の中、じっくりと分解され、腐植となり茶樹の栄養の源となっていきます。以前は、(植物が吸収しやすい状態となっている)肥料を施しながら栽培していくことが農業だと考えていました。しかし草木の投入を主体とした栽培に切替えて以来、茶園自らの力で「まるごとの草木」を分解していく、その過程が重要であり、そんな自然のリズムのなかで育つことができる茶園環境こそが大切であることに気づき始めました。茶樹本来が持つ自らの生命力で育つリズムが出来始めているように感じています。

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月ヶ瀬の山間に点在する当園の茶園は、隣接する森、笹やススキの草場などの自然に囲まれています。茶園の周辺で育つ自然の草木を刈込んで、茶園に投入することを主体とした栽培に切り替えて以来、年々、茶園の周辺で育つ自然の草木と茶の新芽との色合いが調和してきているように感じています。これは、自然の産物としてのお茶に近づいているということではないかと思います。

茶園の新芽と、隣接する森の新芽の色合いが調和してきました。山の産物としての新茶が理想です(若山圃場)

茶園の新芽と、隣接する森の新芽の色合いが調和してきました。山の産物としての新茶が理想です(若山圃場)

 

奈良・月ヶ瀬は、秋から春までの茶樹の休眠期間(冬)が永く、山間地特有の寒暖差の激しい気候・風土のもと、新茶(一番茶)が育つことができるギリギリの生育環境であり、新茶の収穫時期が世界でも最も遅い茶産地のひとつです。自然界に育つ植物は、熱帯では葉が大きく、寒帯では小さな葉となるように、お茶も熱帯のアッサム種は葉が大きく、中国種は小さくなります。このようなことからも世界の中で、最も冷涼な茶産地に属する奈良・月ヶ瀬のような生育環境だと、茶樹は、「ゆっくり」「小さく」「力強く」育つと考えられます。奈良・月ヶ瀬の自然のリズムでお茶が育つよう意識した栽培に切り替えてきた結果、新芽の節間が短くなる傾向が出始めました。葉と葉の間の茎が短いということは、これまでより、「ゆっくりと」「力強く」育つように変化していることになります。このようなことから、世界で最も冷涼な茶産地のひとつ、奈良・月ヶ瀬の特徴が少しずつ出始めているのではないかと思います

 

「ゆっくり」「力強く」「小さく」育つ、節間が短い新芽(老間圃場)

「ゆっくり」「力強く」「小さく」育つ、節間が短い新芽(老間圃場)

 

 

さいごに

ここ数年、当園の取組みの話をする中で「まさに自然栽培ですね。」と言われることが多くなって来ていました。これまで、自然栽培ということをなかなか位置づけられなかったため、その言葉を「あえて使わない」と考えてきました。今回、雲南の自然栽培茶・野生茶を訪ねたことで、自然栽培の在り方を私なりに持ち始めることが出来ました。またここ数年の取組みの中で、「お茶が自らの生命力で育つことができる茶園環境」を意識していくことが、まさにそこにつながるのだということも、雲南と当園の茶樹の様子を比較することで実感できました。今年は栽培技術だけではなく、暮らしを含めた繋がるものの在り方を意識して考え、実践し、お茶づくりに活かしていこうと考えております。「力強く」「香り高く」「雑味のない」茶を、来年にはもっと具体的にできるよう頑張りたいと思います。

2015年4月 月ヶ瀬健康茶園 岩田文明